出る杭は打たれる
今日心療内科に行った。
朝から行きたくなかった。なんなら昨日の夜にはもう憂鬱だった。でも予約をとった以上行くしかないので、行った。
三時の予約だったのに、入るのに躊躇いすぎて四十分くらい過ぎた。自分のクズさを堪能してから入る心療内科、一周回って愉快だ。
行きたくなかった理由は、ただの怠けという事実を突きつけられることを恐れていたから。自分が今まで必死に逃げてきたツケであるから仕方が無いことだとは分かっていても、どうにも嫌で名前を呼ばれるまで神に祈っていた。
結論から言って、世界は案外優しかった。
自分のことを言葉で話すことが世界一嫌いだから、理由だとか、原因だとかを根掘り葉掘り問いただされるのを危惧していたのだけれど、あまり詮索せずに薬を出して頂いた。
血圧も調べて頂いたが、低すぎる訳でも無く十分に健康の範囲内だった。
一日一回服用の薬と頓服の薬が処方された。
不思議なもので、薬がある、という事実だけで頑張れそうな気になってくる。安心感がある。辛いときに頼れるもの、という認識をしているから、気分が楽になった。
帰り道、心も足取りもすごく軽かった。病院に行けた自分は頑張った、今日貰った薬があればきっと学校にだって行けるだろう。そう考えていた。
帰宅してからは、本当に、噎せ返るような地獄だった。
家に着いてすぐに母に問いただされた。
まず、母はずっと私が学校に行けない理由が低血圧にあるのだと思い込んでいた。だから、「血圧どうだったの」
から始まる会話となった。
血圧は問題無かった、と伝えた。先生に何て言われたの、どんな薬を貰ったの、と更に問われる。
ここで「学校に行くのが辛いから、不安な時に飲む薬を貰った」なんて答えられなかった。これはプライド云々の話では無く、これを言ってしまったら、父にそうされたようになんで辛い、どうして辛い、理由を言ってみろ、の質問責めが始まるのは目に見えているから。
まず辛いとも思っていないはずなのに、だから理由なんて無いのに、あるのが当然だという態度で話されて、どう答えろと言うのか。
そう考えた故に黙っていたら、
「学校何日も休んだんだから報告ぐらいしっかりやれよ!」
と、怒鳴られてしまった。
一気に気分が悪くなった。忘れかけていた自分の今までの積み重なった過ちに後頭部を殴られるようで。
加えて、自分は薬に頼らないと学校にも行けないような弱い人間だ、と詰られているような心境になった。何も間違っていないけれど、事実をまざまざと見せ付けられているような感じで、目を背けたくて仕方が無い。
それから母は、薬の説明を読み、こう言った。
「この薬ちゃんと飲んで、お前も治るように努力しろよ」
おかしくなりそうだった。というかおかしくなった。
治るように、努力。
惨めで仕方ない。私には努力の仕方も治し方も分からない。けれども、治さなければならない。普通とは違う、おかしい人間だから、正常になる為に努力しなければならない。そういうことなんだろう。
そもそも努力が出来ない人間だからこそこうなったんじゃないのか。これ以上どこをどうして努力というものをすればいいのか。もうそれって、この腐りきった性格を根本から変えないと、不可能に近いんじゃないのか。もう死んだ方が手っ取り早いんじゃないか、もしかして……。
世界、ちゃんと厳しかった。